今までにも雷の写真は何度か見たことはあったし、自然現象のほんの一瞬を捉えた写真としてそれなりに凄さを感じてもいた。しかし、これまで写真についての解説を聞いたことは一度もなかった。そして、野村さんから雷についての解説を初めて聞いて驚いた。
説明の内容はこうだ。「人間の神経の伝達速度は、雷の伝わる速度より遅いです。ですから、ピカッと光ってからシャッターを切っても遅いんです。」
よくわからないので少し調べてみた。人の神経の伝達速度は音速(約340m/s=1225 km/h)より遅い。また光速は俗に「1秒間に地球を7回半回ることができる速さ」とも表現され、光速を超える速度は通常の物理学空間ではありえない。
これでは、雷がピカッと光ってからシャッターを切っても全く間に合うはずがない。ではたくさんある雷の写真はどうして撮っているのだろう。どう考えても結論はひとつしかない。つまり、雷が光る前にシャッターを切っているのだ!こんな写真の撮り方があることなど夢にも思わなかった。
講演会当日、野村さんは「実は今晩がチャンスだと思っているんです」と言った。天気予報を聞いて雷の落ちそうな可能性のある時間と場所に狙いを定めているのだ。そして、じっと雨の様子をうかがって、ゴロゴロと雷鳴が鳴り始めたら、ある目標に向かって連続でシャッターを切り続ける。その雷には間に合わなくても次の雷に照準を合わせて。
連続で10回ほどのシャッターを、何度も何度も繰り返して連射するのだ。果たしてうまく写っているのかどうかは、後でカメラをチェックしてみないとわからない。まさか、こんな面倒なことをしているのだとは露ほども思っていなかった。これはもう素人の想像の域を超えたプロの世界だ。
結果からみると、うまく撮れた場合には、たまたまシャッターを連続で切り続けている間にピカッと光るという「偶然」があったということになる。野村さんも「偶然にうまく写っていた」と表現している。しかし、この場合、偶然と言うのだろうか?
この「プロカメラマンの秘密を探る」シリーズの序章として、「編集後記~用意周到な偶然」と題した記事を書いた。そこでは、カメラマンの技を、単なる偶然ではなく”用意周到な偶然”と称した。これに対して今回私の頭の中に浮かんだのは、”予測された必然”という言葉だ。
”用意周到な偶然”から更に一歩踏み出して、はっきりとした目的を持って”予測された必然”を確実に追いかけているプロカメラマンがそこにいる。

これまで、プロカメラマン・野村成次氏の作品についての記事を15回に亘り掲載してまいりましたが、今回をもって終了となります。今日までご覧いただき誠にありがとうございました。
(八咫烏)
6+