風景写真の中で、対岸の景色が水面に鏡のように映りこんでいるものがよくあり人気が高い。「逆さ富士」は富士山の風景を表す雅称の1つであるが、河口湖の水面に上下反転した形で映り込む山影は、その代表的なものであろう。
プロもアマチュアも好んで撮るこの「上下対称シンメトリー」の写真を撮るためにはコツがある。水をぶれないように写すには速いシャッタースピードが必要だ。しかし、水面が強い風で揺れている場合は、いくらシャッタースピードを速くしてもブレて映り込みは不鮮明になる。
先日の講演会で野村さんが仰った一言もずばり「風」についてであった。風があると水面にさざ波が立って映像が乱れるのだ。きれいに映るためには無風状態がやはり理想なので、水面が水鏡みの状態になるような風のない日を選ぶことがベストの選択であろう。
今年1月19日早朝、小田急線の鉄橋下で野村さんが撮ったのがこの一枚。風のない日を選んで撮ったことで、見事な上下対称の構図になっている。さらに、拡大してみないとわからないが、丁度その時空をV字型に飛んでいた鳥の群れが映り込んでいる。空の鳥には気づいていたが、その鳥まで水面に映りこんでいることは帰宅するまで気づかなかったそうだ。このことがまた、この写真の価値をひとつ高めていると思う。

「早朝の多摩川畔」と題されたこの写真は、第61回川崎市観光写真コンクールにおいて優秀賞・「川崎市議会議長賞」を受賞し、3月23日に東海道かわさき宿交流館で表彰式が行われた。

この写真には後日談がある。もう一枚のこの写真。お気づきの通り構図がまったく同じである。実は、野村さんは、受賞写真を撮った後、その翌日もまたその翌日も同じ場所に出向いている。最初撮った写真に不満があったのか、はたまた、もっといい写真をと求めたからなのか。
そしてさらにその後、1月23日、身も凍えそうに寒い日に同じ場所に行くと水面は完全に凍っていた。その時の写真がこれだ。この状態では完全な上下対称とはならないが、これはこれで別の味わいがあるというものだ。

ふと足元をみると、氷が面白い絵を描いていた。氷の渦が幾重にも重なって、人間の目と口のように見える。そう、あの名画「ムンクの叫び」のように。さるところに「氷の叫び」と題してこれも出品したところ、版権を譲ってほしいとの話があったそうな。さすがプロだ。この写真は版権の関係でお見せできないが、当日会場におられた方は覚えておられると思う。

目的とする場所に行って目的とする写真を撮ろうとしても、気象条件その他の状況からその目的が達せられないことがある。そんな時は視点を変えてみるのもひとつの方法だ。正面ばかり見ていても埒が開かない時、ふと足元を見てみると思わぬ発見をすることもある。上記はそのいい例だと言える。これもプロカメラマンの仕業なのか。

~つづく~
(八咫烏)

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