花と神話~アンズ
昔ギリシャの草原に一本のアンズの木がありました。枝に美しい実をたくさんつけた頃、その木の近くを一人の娘が通りかかりました。その娘はサンガリオス川の川の神の娘ナナでした。彼女は見事な実を見つけると、それをいくつか摘んで懐に入れ、家に持ち帰りました。
しかし不思議なことに、家に帰ってそれを取り出そうとしたのですが、懐には何も入っていませんでした。しかもナナは、そのときから身ごもって間もなく男の子を生んだのです。その子はアッティスと名付けられました。
娘がこんな風に子供を産んだことを恥ずかしく思ったナナの母親は、その男の子を人知れず山に捨てました。しかし幸いなことにその子は羊飼いに拾われて得育てられたのでした。そして大きくなるにつれて美しい青年になりました。
ゼウスが夢で流した精液が大地に浸み込んで、それから生まれたと言われるアグディスティスがこの美しい青年を見て激しい恋に落ちました。アッティスも女神の寵愛に感じて、決してその愛を裏切らないことを誓ったのでした。
ところがアッティスの身内の者が彼をペッシーヌに送って女王と結婚するように取り決めました。その婚礼の宴会に突然アグディスティスが姿を現したのです。彼女は嫉妬のあまりアッティスを発狂させました。狂ったアッティスは自らの手で去勢してしまったのです。
息子を哀れに思ったナナは神に祈りました。彼の魂が松の木に宿るようにしてくださいと願ったのです。そのときアッティスが流した血からスミレの花が咲いたとも言われています。
この不思議な話には深い因縁があって、ゼウスの精液だけから誕生したアグディスティスは両性具有者でした。神々は集まり相談して、アグディスティスを女性にすることに決め、男根を切り落とし、それを地中に埋めたのですが、不思議なことにそこからアンズが生えてきたのです。ナナが摘んだのはこのアンズの実であったというわけです。