68年ぶりに初恋のひとから「年賀状が届く」・・・X氏のつぶやき78

いつも一方通行の私からの年賀でしたが、68年ぶりに、中学時代に机を並べていた女生徒から年賀状が届いた。彼女は地元の国立病院の看護婦長(当時)をしていたことは知っていたが、刑事の人と結婚されてからプッと消息が途絶えてしまった。それは私たちのクラスメイトの一人が拳銃を隠し持っていてその刑事に逮捕されたことから、彼女は私たちの会合にも参加しなくなったという。夫の刑事の指示であったそうな。

私は他人から聞いたのだが、かまわず年賀状だけは出し続けていた。
ところが、お互いまもなく83才になる今、彼女からこんな内容の年賀状が届いた。
「片づけていたら、中学時代の私の筆箱からあなたのエンピツが出てきたの。どうしましょうか?」
昭和26、7年ころの鉛筆はお粗末ですぐに芯が折れる。その度に彼女は折れた私のエンピツをナイフで削って芯をとがらせてくれた。
さりげなくやってくれたが、私は照れくさくてお礼も言えず、学校の帰りは道が途中まで同じで無邪気にじゃれながら帰ったものです。ですが、机を並べて勉強するのは、恥ずかしくて心穏やかではなかった。彼女は突出して勉強ができた。いつも級長だった。
なぜ、席が同じ横になったか?それは席順がアイウエオ順でしたから「マ」と「ヤ」とが近かったので、男女順に座っていくとどうしても彼女が私の横になった。それは平等だったが、私は穏やかではなかった。休み時間、運動場から教室に戻ってくると必ず彼女が私のエンピツを削っておいてくれていた。長さが半分ほどになったエンピツも彼女は上手に削ってくれた。

その時のエンピツを82才になっても持っていてくれたのだ。
私は何も持っていない。思い出だけだ。

学校帰りに野地の堤にさしかかった時、水門の出口のたまりに出た。
「ここにはな、大きなナマズがいるんだよ。捕って学校の用水池に入れる?」というと彼女もスカートをブルマーのようにたくしあげて「私も捕るわ」と川に入ってきた。
たまりの堰を切って水を追い出した。たまりの水が少なくなると、水門の出口から大きな魚が次々と出てきて彼女を驚かせた。
「どうやって捕まえるの?」
「ちょっと待って。僕のシャツを脱いでこいつで捕まえよう!」
「あ、ナマズ!あれ、ナマズとちがう?」
彼女は叫んで手で捕まえようとするが、ナマズは足元を逃げ回る。
「ふみちゃん、そっちから追ってきて。僕のシャツの中に追い込んで」
彼女はスカートを濡らしながらナマズを僕のシャツに追い込んだ。二人の協力の成果だった。二人はそのままナマズをシャツに包んで学校まで走った。生徒はもういなかった。二人は10m四方の防火用水池(人工)にナマズを入れた。

「ふみちゃん。明日早く来てこのナマズ釣ろうか?」
「釣れるの?」
「分からんが」
「先生にも言うてからしよう」
「そうか、みんなで釣るか」
「早く来るの?」
「7時に来れる?」
「来る。うちは来る。長谷川先生も誘って。あの先生釣りしたことないと思うから」
「よし、ぼくが誘ってみる」
「私も楽しみや」
そんな話をしながら再び池の方に走った。
「じゃここでさよなら」
「さよなら」
初恋のふみちゃんは、スカートをまくったまま走りだした。その姿は今でも美しく覚えている。

「僕のエンピツをか!どう返事をしたらいいのか」
私の気持ちは甘酸っぱくうずく。気持ちの中にいるふみちゃんは、決して年をとっていない。ブルマー姿のかわいいふみちゃんだ。田舎っぺなのに田舎っぺではない。どこかアカぬけしていた。クラス一番の美人だった。だが中学生はほとんどウブだった。青春とはほど遠い。腹ペコの毎日だから恋愛など知らなかったが、なぜか私はふみちゃんのこと、彼女が病気で休むと寂しくてたまらなかった。

彼女への淡い恋心みたいなものが。今もよみがえってくる。

今更、ラブレターは書けまい。とて、いつわりのない気持ちを伝えないとそのエンピツに申し訳ない。何十年も彼女の筆箱にふみちゃんのエンピツと一緒に入っていたのだ。
ふみちゃんありがとう。願わくばそのままふみちゃんの筆箱に入れておいてくれませんか?と書こうか。お正月早々、私の胸の内はただならぬ青春時代に引きずり出されてタイムスリップした恋心におち込みました。

さて、どんな返事を書けばいいのか、考えながら明日は透析に行ってきます。

時は過ぎ去っていません。どこか心の中でいきづいているのですね。

時よ、ありがとう!

決して過去ではない!ふみちゃんからの年賀状でした。

68年ぶりに初恋のひとから「年賀状が届く」・・・X氏のつぶやき78” に対して2件のコメントがあります。

  1. アバター Bellk より:

    素敵なお話ですね😃
    私にとっての「ふみちゃん」って誰かなぁ?考えてしまいます。

    …で、X氏はお返事どうする???

  2. アバター Xマン より:

    返事は出すつもりですが、勇気がいりますのでナマズを捕った時の気持ちで書こうと思います。後押しをしてください。

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