遠い道・・・X氏のつぶやき88
この道はいつか来た道。今日もまたこの道を歩いている。
あなたと歩いた道を、一人ポトポトと、あなたの足跡をたどってどこまで続くのか遠い道。
あなたは何処へいってしまったのか!わたしをおいて突然いってしまった。声も届かず、姿もおえず、ただ面影だけが続く道。
ストーブもない学び舎で机を並べて学んだ日、しもやけの手で鉛筆を削ってくれたあなたに、ありがとう!も言えず過ぎ去ってしまった遠い日の事を抱きしめてあなたと歩いた堤の道を思い出す!
楽しかったはずの思い出が涙とともにこぼれる。遠くに叫びたい!ありがとう!
どこにいったの?どこへいったの?
晴れ渡る青空もこだまさえ戻ってこない。多摩川の堤は春を待ちかねてもう新芽をだしているのにと、淡い希望を抱いて歩き出す。あの二人で歩いた池の堤をこの多摩川に重ねて六十八年前の少年少女のはにかみながら心を通わせた幼い恋心がいまダイヤモンドのように輝き出す。
わたしの鉛筆があなたの筆箱のなかで!
私は勇気をふるって手紙をだした。いつわりのないふみちゃんへの思いを書いた。今更なによ!と言われてもいい!なぜ、あのときにありがとう!といえなかったのか。ご免なさいと書いた。気持ちを一杯つめこんで封をした。
投函!手が震えた。封書はポストにおさまった。それから一週間が経った。ふみちゃんから返事が来るかと郵便受けをのぞく。
何と!私の出した手紙が戻ってきていた!あて所に尋ねあたりません。
ああ!最後のたよりだったのか?何日も経っていないのに!わかれの年賀状になった。わたしになにかをつたえようと!そうだ、そうに決まっている。ふみちゃん、ありがとう!あなたに会えるまでこの道を歩いていく。どんなに遠くてもあなたと歩いた道を思い出して今日も歩いていく。
ああ!無情。忘れがたき初恋。