笑説「ハイムのひろば」7 光明

7. 光明

プリントアウトしたA4用紙を数枚見ながら考えを巡らせるが、なにも浮かばない。こんな状況がいつまで続くのかと弱気になりながらコーヒーカップをすすっているとドアが開いて、宮下直近がいつものようににこやかな笑顔でやってきた。ここは、近くのモスバーガー。いくらやっても埒が明かない状況に業を煮やし気分転換をと思いやってきた。同時に心配しているに違いない宮下に経過報告をしようと思い来てもらったのだ。

3日間やってきたことを報告する。少しでも状況が分かるようにとプリントを見せる。宮下は、見てもさっぱりわからないと笑顔で答える。絶望させるわけにはいかないので何とかしますと強気の姿勢は崩さないが、苦悩していることは隠せない。そして時間はかかるけど最期の手段もあるからと希望を持たせるようなことをいう。今までのものはなくなっても新しいものができればそれでいいと言ってくれる。それは彼のやさしさだとわかっているのでますます気を引き締める。「何とかしますのでもう少し待ってください!」

小一時間宮下としゃべって帰宅する。3日間じっと家にそして自分の中に閉じこもっていたことで滅入っていた気持ちが少しだけ晴れた。手を洗いに洗面所に行き鏡を見るとそこには、髭ぼうぼうの自分の顔。それもそのはず、ほぼ徹夜の作業だったので、食事以外のことには気が回っていなかった。今、世間はコロナウィルスのことで喧しいが、西野は3日間テレビも新聞も見ていない。こちらは、コロナではなくコンピューターウィルスにやられているかもしれないのだ。(え?どっちが大事!?)

帰宅してパソコンを開けると、サーバーから返事が来ていた。皮肉を込めて窮状を訴えたあのメールに対する返事だ。文面はこうだった。「方針としてWordPress利用についてのサポートはできないが、外部サイトで参考になると思われるものがあるので紹介する。ただ、このサイトについてのフォローアップはできかねる」。原則の姿勢は崩していないが、少しは配慮が見える回答だった。早速その外部サイトを見るとわずかな光が見えそうな内容だった。そして、それは最後の手段として考えていた作戦の助けになる内容だった。

満足度評価での西野の作戦が功を奏したのかどうかはわからない。ただ、この回答をくれた担当者に気持ちが伝わったことは確かであろう。会社の規定によりWordPressのサポートという形はとれないが、言いたいことを他人の口を借りて伝えてくれたようなものだ。そうでなければ、このように外部サイトを紹介するということもなかったであろう。たまたま幸運でそうなっただけで、担当者が違っていたら同じ結果になったかどうかはわからない。いずれにしても、西野がこのアドバイスで大きく一歩前進できたことは間違いがない。

ただ、この情報も、今起こっている問題を一挙に解決できるというものではなかった。言ってみれば手掛かりは掴めたので、あとは辛抱強く努力を重ねればやがては望む形にたどり着けるだろうというものだった。本当の闘いはこれからだ。一挙に解決する方法は未だに分かっていないので、経験のある「引越し法」を始めようと決意した。そして、既に頭の中にあった「身軽なものから始める」作戦に出た。宮下と松田の蝶博士二人が一日も早い復旧を望んでいるに違いない「蝶図鑑」から始めることに迷いはなかった。

この時になって、西野の気分は初めて少し楽になった。メンバーの望みがかなえられそうな予感がしてきたからだ。萎えかけていた気持ちをもう一度奮い立たせてキーボードに向かう。

~つづく~

蓬城 新

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