笑説ハイムのひろば13 恐怖のバ-ジョンアップ①

恐怖のバージョンアップ

2018年12月中旬のことだった。その日、山咲淑子は夕食を済ませたあとパソコンに向かった。今や「歩こう会」のホームページ作りは、不思議な玉手箱を手にしたような気持ちでいたので、毎日一度はチェックしていた。昨日、予定している新年会の案内ができたのでPDFファイルに変換してアップロードしようと作業に取り掛かった。

いつもの通り電源を入れ、「歩こう会」のホームページを立ち上げる。前回、電源を落とすときにシャットダウンではなくスリープを選択しておいたのであっという間に画面が現れる。このあたり、かなりパソコンのスキルが向上してきているのがみてとれる。山咲はこれまでワードやエクセルは使いこなしているが、ホームページを自分で作るのは初めてのことで、その楽しさが分かり始めていた

想えば、つくり隊から土台となるサイトを譲り受け、それを自分たちの手で加工し始めたのが7月頃だったか。歩こう会には元々会の創設者である家永康文が作った立派なサイトがあったが、WordPressを使った新しいものを作ろうというメンバーの意向に家永は喜んで同意した。自分の作ったものが新しいものに取って代わられることは寂しいものだと分っているので、西野は家永に対して申し訳ない気持ちもあった。ただ、鏡にリニューアルへの協力を依頼された時に家永からも同様に言われていたので、その寛大さに尊敬の念を抱いていた。

つくり隊スタッフの池田鈴子による懇切丁寧な技術的フォローは毎週行われ、一歩一歩着実に進められた。もうオープンしても大丈夫だと池田が何度進言しても代表である北川恵子(え?DAIGOの奥さん? No! “ICM” = “いいえ、違い、ます!” それは「北川景子!」)はなかなか首を縦に振らなかった。デザインやベースカラーを決めるにも何度も何度も検討を重ね、慎重に進められた。この時、北川が頼りにしていたのが山咲のセンスだった。

10月になってようやく正式にオープンして以来、今日まで約3か月が経過したところだ。山咲は新しく手にした不思議な玉手箱を開けた。新年会の案内のリンクを貼ろうとPDFファイルのURLをコピーしてマウスを操作する。ところが目的のURLが出てこない。あれ、もうすっかり慣れたと思っていたのに何か違ったかしらと思いながら、数回試してようやく貼り付けることが出来た……と思った。

その時だった。突然、画面に、10cm四方のブルーの枠が現れ、そこにアルファベットと数字と記号の大群が踊りだした。
一瞬、山咲は飛びあがった!
「これはいったい何なの?どうしたっていうの?」

心臓が止まりそうになった!見たこともない画面に気が動転して、自分がどこか触れてはいけないところに触れてしまったのか?

「どうしよう!」とにかく次々と流れ出てくる文字を止めたい。その一心で何かのキーをたたいた。すると、とりあえずその動きが止まった。その間多分10秒かそこいらだったと思われるが、山咲にとっては地獄の10秒だったようだ。

あまりにも突然な、そして見たことのない不思議なものを目にして、呆然として暫く動けなかった。2分か3分?いや5分経ったかもしれない。訳の分からない状態からふと我に返り、代表の北川に(DAIGOの……いや、さっき出ましたよ!もう結構です)慌てて電話を掛けた。

「お、お、お願い、今すぐに来て!」
電話口での山咲の動転の様子を察知した北川は(DAIGOの……)すぐに飛んできた。丁度ドアは開いていたのでそのまま室内へ。見るといつも、にこやかで凛としている山咲がパソコンの前に座り込んで、顔は真っ青になり息を切らせている。何か急病でも発症したかと、一瞬救急車を呼ぼうと思ったほどだった。

北川の顔を見てようやく少し落ち着きを取り戻した山咲は、ことの経緯を説明する。しかし、話を聞いた北川にもいったい何が起こったのかさっぱりわからない。あまりにも普段と状況が違っているからだ。

「もしかしたら私、歩こう会のホームページを壊してしまったかもしれない!」と顔面蒼白で言う山咲の言葉に、北川はすぐに「池田さんに連絡しましょう!」と提案した。このサイトをスタートするまで、ほんとうに何も知らない二人がゼロの状態から、ひとつひとつ懇切丁寧に教えてくれた恩人ともいえる池田鈴子だった。

すぐに、池田に電話をかけ事態を説明した。池田は直ぐに自分のパソコンで確かめてくれた。が、しかし、返事は北川の意見と全く同じでどうにも解決のしようがなかった。結局その日は、疑問の解決には至らなかったが、歩こう会のサイト自体は今までと変わらぬ状態で、特に影響が出ているようには見えなかった。自分のパソコンがおかしくなったのならそれでいいと、山咲はひとまず留飲をさげたのだった。

~つづく~
 
蓬城 新
 

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