笑説「ハイムのひろば」5 散歩は犬のためならず
5 散歩は犬のためならず
目覚まし時計に起こされて、コーヒーとパンで朝食をとる。愛犬は自分の食事を終えた後、まだ欲しいと横に座ってパンのおこぼれを待っている。犬という動物は食べることに対して非常に強い執着心を持っている。それは、昔、犬に進化する前の野生のオオカミだった頃に、たまに得た食料を食べられるだけ食べておいて、いつ来るかもしれない飢餓に備えたという本能からきている。その本能が犬と進化した今でも残っているのだ。かわいいからと言って本能に任せて甘えさせた結果、醜いデブ犬にしてしまう飼い主失格者も大勢いる。
いつも通り、朝の散歩に出かける。通常、朝夕1時間ずつ一日合計2時間散歩する。合わせて合計10000~12000歩になる。雪が降ろが槍が降ろうが散歩は欠かせない。わが愛犬は、血統書付きの英国紳士・ウェルシュ・コーギー・ペンブローク。かのエリザベス女王が大好きで飼っているのと同じ犬種である。このことばかりは西野は誇り高く思っている。他に自分に誇れるものがないからである。
この犬は散歩を含めて運動が大好きだ。ボール遊びやフリスビーなど外で走り回りたいのだけれど、リードを話すことができないのでそれはドッグランに遊びに行った時だけだ。小さめの犬はそれほどでもないようだが、この犬種は運動しないとストレスが溜まり病気になることもある。そしてこの散歩、実は、犬のためだけではない。
「情けは人のためならず」と言うが、西野の場合は「散歩は犬のためならず」である。医師から、血流改善のために毎日歩きなさいと強く言われているのだ。ずぼらな性格の西野は、一人では歩けないと思っている。まあまあの健康でいられるのも愛犬のおかげだと感謝している。家族と同じかひょっとするとそれ以上の存在なのかもしれない。(ここだけは家族には読まれたくないと思っている)
西野はこれまで、「ハイムのひろば」の展開の中で、いろいろな新企画を打出してきている。オープン当初の「フォトコンテスト」、姉妹サイト「赤ちゃんクラブ」や「緑の委員会」の創設、そして、秋には「美術館」と「文芸館」をスピンアウトさせ独立させてきた。勿論一人でやったわけではなくメンバーとよく話し合い協力し合ってのことだ。
あまり公にはしていないが、このようなアイデアは、実は散歩中に頭に浮ぶことが多い。歩いていると血流がよくなり、脳にも好影響をもたらすのかどうかわからないが、事実である。これはひょっとしていい企画になるかもしれないと思ったことは、スマホのボイスに吹き込んだり、メモに書いて記録しておき、帰宅してから備忘録に書き移すのだ。それを、毎週開く勉強会などで提案し賛同を得られれば、さらにメンバーの意見を取り入れて実現していく。
こうして今までやってきた企画はそこそこうまくいっているとメンバーも言ってくれている。話が横道に逸れかかっているが、これもすべて散歩中に考えたことだ。散歩から帰った西野がパソコンを開く。果たしてサーバーからの返事は来ているのか? おー!あった。急いでメールを開いて見る。そこにはこう書かれていた。
「お問い合わせの件につきまして、
つまり「ログインできないのでどうすればいいですか?」という問い合わせに対し「ログインはできる状態になっているので、サーバーとしてできることはここまでです。あとは、利用しているソフト「WorldPress」の問題になりますのでそちらで解決してください」ということだ。言われてみればその通りで、返答した担当者は社内の規定通りに回答しているので責めることはできない。やはり自分で考えるしかないと、西野は腹をくくらざるを得なかった。
~つづく~
蓬城 新