ジャンケン生徒会長

『ジャンケン ポンっ!!』

「え!?」

こんなことがあるのだろうか?8人でジャンケンして一発目で勝負が決するなんてことが、しかも一人負け…。私のパーが7人のチョキに破られた瞬間、私の高校生活は大きく変わってしまったのだった。

私は高校1年生の時、友人に誘われて生徒会に所属していた。そして私は友人を次々に引き込み、気がつけば私の学年の生徒会メンバーは私の友人8人で構成され、高校2年生の生徒会長の下、私は仲間達とワイワイ楽しく生徒会活動に勤しんでいた。

私の高校では高校2年生が生徒会長を務めるので学年の変わり目である3月に生徒会長選挙が行われる。基本的には高校1年生の中から生徒会長への立候補者を募るのだが、その年は立候補期間が終わるギリギリになっても立候補者が現れなかった。私の学年には私を含め「全生徒の先頭に立って学校を良くしよう!」なんて考える者がほとんどいなかったのだ。その為、このまま立候補者がいなければ生徒会所属の8人の中から出馬しなくてはならない。

『それだけは嫌だ!!』

我々は必死に周りの生徒に声をかけた。そしてなんとか一人、立候補者を立てる事ができたのだった。普段であれば立候補者が複数いるので決戦投票になるのだが、今回のような一人の場合は信任・不信任投票となる。とはいえ、一人でも立候補者が出たのだから我々は一安心。あとは選挙日に決意表明演説、投票、集計、これらが無事に終われば良いのだ。しかしここで生徒会顧問の先生から茶々が入る。

「信任、不信任投票かぁ…万が一不信任になったら…流石に生徒会長が一発で決まらないってのは良くないから決選投票の構図がいいのでは?」

そこで対抗馬を出すことになった…我々8人の中から。そしてある密約が交わされた。話はこうだ。

形式上、決選投票として生徒にはどちらかの立候補者に投票してもらうが、その結果に関わらず正当な立候補者が生徒会長になる。

要するに「出来レース」というやつだ。対抗馬という名の噛ませ犬…。当然そんな役は誰もやりたくない。そんなこんなで最初のジャンケンに戻るのだ。そして、そのジャンケンに負けた私は立候補者として見事に噛ませ犬を演じなくてはならなくなったのだった。

選挙日。投票の前に立候補者は全校生徒の前で決意表明という名の演説をしなくてはならない。私は勝ってはならないのだから立派な事は語ってはならない。用意した台本にも無難なことしか書かなかった。極力やる気を見せてはいけないのだ。

いよいよ私の演説、流石に体育館に集められた全校生徒の前に立つのは緊張する。

「こ…この度、立候補しましたまーぼーです。」

『wwwwwwwwwww』一部の生徒から笑いが起きた。

まぁ私を知っている連中は私が生徒会長に相応しい人物でないことをよくわかっているのだ。そんな奴が神妙な顔をして「このたび…」なんていうのだからそりゃ可笑しいだろう。しかし、この一部の生徒の笑いが私の中の眠れる大阪魂に火をつけたのか、私は用意していた台本を無視してペラペラと調子の良いことを喋り始めてしまった。

笑いが起きる。さらに私の口は加速する。もう止まらない。

終いには「実は私は生徒会長なんてやりたくないんだ!ジャンケンで負けたからここに立つはめになったんだ!!」と禁断の裏事情を暴露。

体育館が揺れた。

 

『おもしろかった!!よくやった!!』

演説を終え降壇した私を7人の仲間達が熱く迎えてくれた。最高の気分だった。こうして私の噛ませ犬としての役目は終わった…そう、終わるはずだったのだ。しかし、

演説後に行われた投票の結果、私は勝ってしまったのだ…大差で。

毎年、選挙の結果はほとんどが僅差なのだ。おそらく毎年ほとんどの生徒が適当に選んで投票していたのだろう。しかし今回は私が悪い意味で目立ってしまった。その為、多くの生徒が面白半分で私に投票してしまったのだった。その結果、(そもそもこのような不正はよくないのだが…)操作できないほどの票差が生まれてしまったのだ。私にとって頼みの綱である顧問の先生からも「流石にこの結果だと…うーん…ひっくり返せないなぁ…諦めろ!」とハシゴを外され、めでたく私は生徒会長就任が決まったのだった。

 

そして翌週月曜日の朝礼、私は全校生徒の前に再び立った。

「こ…この度、生徒会長に就任しました…まーぼーです…」

全校生徒が固まった。

『え!?』

ジャンケン生徒会長誕生の瞬間だった。

 

まーぼー

ジャンケン生徒会長” に対して2件のコメントがあります。

  1. アバター suzu より:

    楽しく読ませて頂いております。
    今回も前半の壇上での緊張感と時折のくすっと言う実体験が読み手側に伝わってきました。
    次回が楽しみです。
    貴方のお人柄も時折感じつつ楽しく拝読しています。

  2. まーぼー まーぼー より:

    Suzuさん

    コメントを頂きありがとうございます。

    当時を振り返ると大変な事だらけでしたが、その経験の一つをこうして文章にする機会ができて良かったです。

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