わるがき/その③ 「オレ、無免許運転」・・・X氏のつぶやき65

~なんでも法律相談センターにやってきた男~

「おっちゃん、オレ、字が読めんけん、学科試験、いつも落ちるんや、どないしたらええんかな。オレ、運転技術はばっちりや」
「字が読めんのか?」
「運転技術だけで免許証はくれんのかな?」
「無理や、君、いつも乗って来ている軽トラ、無免許運転か?」
「親方には、免許証持ってるいうて、車持たしてくれてるんや。今さら持っとらん言われへんしな。どうしたらええかな」
「そりゃ、運転したらあかん、親方にはほんまのことを言うて、運転やめな。警察官に逮捕されるぞ」
「運転できる言うて、雇ってもらっとるのに無免許や言うたらクビになる」
「でも、あかん!無免許運転はあかんぞ」
「学科試験、オレの代わりにおっちゃんが受けてくれへんかな」
「君は!おっちゃんが聞いた以上、運転させるわけにはいかん。運転せんでええ仕事に変わりな」
「中学しかでてへんのやで?どこが雇ってくれる?」
「わたしが仕事探してやる。その間に夜間中学に通って、読み書きを学びな。覚えたらすぐ受かる」
「また学校ですか?」
「それが一番早道だ。無免許運転で捕まったら、今度はなかなか試験すら受けさせてもらえんよ」
「おっちゃん弁護士やろ?なんとかならんの?」
「ならん!」
「もうええわ、おっちゃんに相談したらなんとかなると思ったのに。もうええです」
「おい!西本君!夜間中学だ!おい、どこへ行く?」
「もう、帰ります」
「車で帰るんかい?」
「交通違反しなければ捕まらへん」
「おい、西本君、ちょっと待て!」

西本君という青年は、この弁護士がなんでも相談を受ける、と打ち出してすぐにやってきた相談者だった。このまま放っておけないと思って、西本を捕まえて、この弁護士が西本と同行して、親方に会って本当のことを伝えて、西本がクビにならないことを確かめた。

親方はむつかしい顔をして言った。
「わしのところで土方してくれるなら、運転免許は持っていようが、なかろうが、車を動かせたらこと足りる。今まで通り働け」
と、まるで無免許でも構わない、という言い方をしたが、弁護士は休みの間、自分の事務所に来させて、運転免許の学科問題を学習させて、六か月ぶりに西本君は晴れて運転免許が合格、交付された。

「おっちゃん、見て!これオレの免許証や、見て!」
私は子供の頭をなでるように、西本君の頭をなでた。
「やれば、出来るな!」
「おっちゃんのおかげや、相談にきて良かった」
「友だちにも言うとけ、無免許運転はいかんと」
「友だち、相談に連れて来て、ええですか」
「お前の友達か?」
と聞くと、いまだに暴走族をやっているから、やめさせてくれ、という。

「なんでも法律相談センター」の看板を出して、相談料も払ってなくて、困っている人たちの相談にのってあげようと、気軽に相談に来れるように始めたのに、このような少年たちが相談に来るとは思っていなかったので、この相談センターの意義の大きいことがわかった。

本人の努力によって解決するものがあるなら、それを見つけてあげるのも、弁護士の仕事だと“無料相談”を前向きに考える意味の大きいことを、私は学んだ。

わるがき/その③ 「オレ、無免許運転」・・・X氏のつぶやき65” に対して1件のコメントがあります。

  1. アバター kun より:

    そういえば、思い出しました。
    カリフォルニア郊外のある街。通学には車で行くしかありません。小中学生は親の車での送迎。高校生になるとほとんどが自分で運転していきます。運転免許取得という生活に必要な科目が高校の授業に組み込まれているのです。
    さて、
    授業を受けに来た子を見ると、何と!!
    自分で運転している???

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