明るい弱虫ライターあつこ61のびくびく日記(46)家に帰れない

 

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16時24分。

クラシックのかかった隠れ家みたいな喫茶店。

くるのは実に3年ぶり

営業していてよかった。
心ある店がどんどん閉店していくのを見ていたから。

マスター1人のお店。
お水を運んできて
「17時閉店なんです」

え?
でもあと30分あるから。

「分りました」

ーーー
今日ここでやりたかったのは、ノートに自分の気持ちを書き出すこと。

最近イライラする。
自分でもはっきりした原因がわからない。
だから、喫茶店の時間が必要だった。
自宅ではこうはいかない。

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ベリーのケーキを選んだ

原因は老人ホームの母。
最近、また少しずつ体が動かなくなった。
完璧な寝たきりの状態が近づいてくる。

その気持ちを電話で私にぶつけてくる。
忙しいときにごめんねと言いながら、気持ちをポツポツとぶつけてくる。

いつか遠くない未来にやってくる
この世との別れ。

耳も遠くなってきたので、
こちらの返答もそこそこに
話し続ける。
ひたすら。

全部しっかり聞いていると、
メンタルがやられそうで。
iPhoneを耳から話したり
つけたりしながら聞いている。

老人ホームの部屋に
ペット的な「会話を理解するロボット」を
置くことも考えたが。
(日頃思っていることを、そのロボットに話してもらって、後でその様子を私が聞く)
そんなものはいらないと言われてしまった。

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コーヒーカップがおしゃれ

ーーー
わかっている。
母は家に帰りたいのだ。

それはそうだ。
楽しい旅をしてきたって、結局家に帰ってきて
「あー、やっぱり家は良いなぁ」となる。
誰にでも経験があることだろう。

母は家に帰れない。

私がオムツの面倒を見られないからだ。

ーーー

5年前、寝たきりに近い母の世話を
一人きりで見ていた。

母は、下の世話を私以外に見て欲しくなかった。
介護保険でお願いした
ケアのスタッフには、恥ずかしくてやって欲しくないそうだ。

自らも、親の面倒を見てきた母。
子供は、親の面倒を見るのは、当たり前と言う確固たる信念がある。

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少しずつ、いただく

お料理やお掃除も、完璧な母。

私の掃除の仕方が気に入らなくて、
ベッドに寝ながらも、
そこをもう一度掃除してほしいと言った。

料理が美味しくないと手をつけなかった。

だんだん私は追い込まれて、夜寝られなくなった。
おむつの面倒に精神が削られた。

とうとう理科系夫に
「最近変だよ。
心療内科に行ったほうがいい」
と言い渡された。

ーーー

ケアマネさんと相談した。
母を施設に預けることに強い罪悪感を感じていた。

ケアマネさんは
「選ぶのは娘さんですけれども」
と言いながら3つの選択肢を示してくれた。

今よりもたくさんの人に手伝ってもらって、自宅介護を続ける。
介護保険で入れる特別養護老人ホームの入居申し込む
お金が少しかかるが、有料老人ホームを選ぶ。

父が残してくれたお金もあったので
有料老人ホームを選んだ。
正直、今の状態をどうにかしないと思う気持ちがあった。

自宅周辺の老人ホームをリストアップした。
これはと思った老人ホームに直接訪問をした。
施設長さんと直接、話をした。

面白いことに、同じ会社が経営母体だとしても、その施設長さんによって施設の雰囲気ががらりと変わる。
また、できるだけケアマネさんとも話すようにした。
これも、千差万別で、話してみると、その人の人柄が少しだけわかる。
ここの施設は暖かいなぁとか、事務的だなぁとか。

その中で1番良いと思える施設を選んだ。
たった1人で決めたから、賭けの部分もあった。

寝たきりに近い、母を連れていって選ぶ余裕はなかった。
自分が壊れる前に最善を尽くすんだ。
そんな気持ちでいっぱいだった。

翌日、老人ホームに行く、夜の母の言葉が忘れられない。

「今夜が最後だねえ。
自分の家なのにねえ」

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携帯電話の会話お断り、とやんわりと主張している

ーーー

有料老人ホームに入って、そろそろ4年が経つ。

私の体は楽になった。
こうやってノートも書けるようになった。
不器用な私は介護をしている時、とにかくいっぱいいっぱいで
文章を書いている暇なんてなかった。

今の平穏は、母のおかげ。
母が老人ホームに入ってくれているおかげ。

だから毎週1回、週末に会いに行く。
よほどのことがない限りは行く。

でも、この迷いはなんだろう。
真っ白なノートに向き合って
自分の気持ちを書いていく。

やっぱり申し訳ないなぁと思っている。
自分だったら家に帰りたいだろうなぁと思ってる。

でも、
できない。

ケアマネさんに会いに行こう。
知識を借りよう。
こちらの状況をわかってもらうしかない。

ーーー

「申し訳ありませんが、閉店の時間です」

もう30分経ってしまったか。
まったく儲け主義とは、程遠いお店。

「ごちそうさま」

自転車に乗って、行く先は老人ホームだ。
面会はしない。

電話で確認したところ、ケアマネさんはちょうど運良く事務室にいるそうだ。

「ご相談したいことがあるので、これから伺います」

きっと結論は出ない。
いや、確実に結論は出ない。
これからどんどん衰えていく。母との接し方を
ケアマネさんと情報共有しに行く。

それだけで
たぶん
いいんだよね。
たぶん。

つづく

編集者注:
明るい弱虫ライターあつこ61さんは、noteで毎日記事を更新中です。https://note.com/atsuko_writer55

 

著者紹介
あつこ(61)明るい弱虫ライター
●明るいのに小心者。びくびく。●日本証券業協会「お金について考えていること」入賞 ●定年「理科系夫」育て●朝日新聞リライフ「ビブリオバトル」優勝 ●関心のあること Apple Watch、睡眠分析、お墓探し、メルカリ、任天堂Switch、ポケモン、二世帯住宅、介護、孫保育、通信大学
●noteで毎日記事を更新中です。https://note.com/atsuko_writer55

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