花と神話~ロトス(ロータス)

ギリシャ神話に現れる神は残酷だと言われます。ロトスに姿を変えられたトドリュオペの話もその例の一つだと言えるでしょう。

ギリシャの先住民族ドリュオプスの王にはドリュオペとイオレーという二人の娘がいました。姉のドリュオペは毎日山で羊の番をしていましたが、いつしか木の精ハマドリュアスたちと仲良くなって、羊の番もせずに野山を駆け巡って遊ぶようになっていました。

ある日のこと、太陽神アポロンが美しいドリュオペを見て一目で気に入り、自分のものにしようと考えました。アポロンは亀に姿を変えるとドリュオペたちが遊んでいるところに近づいていきました。

ニンフたちは亀を見ると丁度良い遊び道具と考えて、亀をボールのように投げ合って遊び始めました。ドリュオペがその亀を受け止めた時、亀はその姿を突然蛇に変え、彼女の体の中に入って交わったのです。驚いたドリュオペは急いで山を下り、それから二度と再び山にはいこうとはしませんでした。

ドリュオペに起こったことを知っていたのか知らなかったのかはわかりませんが、父王は間もなく彼女をオクシュロスの王の息子アンドライモンのところへ嫁がせました。やがて二人の間に息子が生まれ名前をアムビッソスと付けました。

ある日妹のイオレーが姉のところに遊びにやってきました。二人の姉妹はニンフに捧げるための花輪とをつくろうと、赤ん坊を連れて近くの河原に出かけました。その河原に一本のロトスが生えていました。ちょうど赤い花が枝もたわわに咲いてとても美しい眺めでした。ドリュオペはその花を一本折ると、子供の手に握らせました。イオレーも摘もうと近づきましたが、姉が折ったところから赤い血が流れているのに気が付きました。じつは、それはロティスという美しいニンフが嫌な男から逃げるためにその姿を変えたと言われる花だったのです。

アプロディーテとディオニュソス或いはヘルメスとの間に生まれたプリアポスはグロテスクでこぶだらけの身体に大きな男根がついているという醜い男でした。あまりの醜さに母親に捨てられたという言われています。羊飼いに育てられその後ディオニュソスの従者になりました。

ロティスは、ある夜ディオニュソスの仲間と一緒に踊っていました。踊り疲れて眠りこんだところを、かねてよりロティスの美しさに魅せられて追いかけ回していたプリアポスが好機到来とばかりにロティスに近づいていったのです。まさに彼女に飛びかかろうとしたそのとき、その場にいた山のニンフ、シレノスが連れて来ていたロバが大きな声を出したのでみんな目が覚めました。おかげで、ロティスは危ないところを助かったのですが、それ以来世の中がいやになって、神に祈ってロトスに姿を変えてしまったのでした。

このロティスのことはドリュオペもイオレーも知りませんでした。折れた枝から血が流れているのを見て、恐ろしくなった二人はすぐに家に帰ろうとしました。しかし「時すでに遅く、ドリュオペの足は地に根付いて動きませんでした。見る間に身体は茎になり、手は枝になって葉が全体を覆ってしまいました。ドリュオペはわずかに動く口で、
「私はこんな目に会わなくてはならないようなことは何もしていません。しかしすべては神様のなさることです。私はもうだめです。子供をお願いします。いつもここに連れてきて私の近くで遊ばせてください。この花がお母さんだと教えてやってください。どの草も木も神様が姿を変えたものだから、決して花を摘んだりしないようにと教えてやってください。これ以上はお話しできません。みなさん、さようなら。」
と、言い終わると死んでしまいました。何も知らない赤ん坊は、固くなった母にしがみつき乳を吸ったのですが出ないので泣き続けたということです。

 

 

 

 

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