ボクのロンドン滞在記~シン日英同盟めざして~ (その33) 真夏の夜の怪奇現象―ほんとにあった怖い話

(前回まで)ロンドンのシティといえば世界的に有名な金融街だが、その境界を外れた東側で人と待ち合わせました。ロンドンの投資会社で働く日本人女性と、仕事の情報交換を兼ねて食事をするためでしたが、なんと民族色の濃いパキスタン料理でした・・・・・
 
7月14日(木)快晴

ロンドンには幽霊が出る話が多い。その昔、霧の深かった町だ。夜には霧と闇に紛れて多くの幽霊が彷徨っていたのだろう。

写真は、我が住処を写したものだ。
いつも10時には寝るのに、昨夜はなぜか遅くなってしまい11時過ぎにベッドに入った。枕元にはいつもの習慣でスマホを置いた。
このところロンドンは真夏の盛りで、夜になっても気温が下がらない。しかし空調などはむろんない。窓を少し開けて眠りに就いた。
ぐっすりと深い眠りに落ちたが、やがて夢を見ていた。

白っぽいジャンパーを着た男がドアを叩いている。のぞき穴から見たが、男の表情は見えない。二言三言やりとりしたが埒があかない。何の用事だと言おうとしたが、声が出ない・・・・・・

突然、男がドアを開けて部屋に入ってくるのが見えた。

えっ、なんで?ドアは内側から鍵をかけたはずなのに・・・・・・

なんと!そこで気がついた。

これは夢でなく現実だ。夢で見た男が部屋の鍵を開けて入って来ている。
暗やみの中に男の姿が浮かんだ。あわてて枕元のスマホを触る。

時刻が光を放つ。2:22だ。

「えっ、2時22分・・・・・・」

男は懐中電灯を手に持っている。こちらにその光を向けて、部屋にずんずんと入ってくる。

なにやら言葉を口に出しているが聴き取れない。
もごもご言っているが、かすかに「モーラー」と聞こえた。

「えっーと・・・・・・もしやモーターのことか?」

そのままずんずん入ってきて、浴室に入っていった。

こちらは、まだ何が起こったのか分からず、夢と現実の境にいるような感じで呆然とベッドで身を起こしていた。

すぐに男は、居間に入ってきて、冷蔵庫、その隣の戸棚を開けて、棚を取り出してチェックしている。

カーテンの隙間から差すわずかな光で、背の高い、痩身の白人の横顔が暗やみに浮かんだ。

ようやく男の正体がわかった。

 
「大家のじいさんだ!」
「モーターか?」と大家に訊くと、そうだと言って、モーターに異音があってチェックしていると言う。
すこし安堵したものの、それにしてもこんな真夜中になんで闖入してきたのかと不信感が拭えない。

その間3、4分のときが過ぎただろうか。大家は、I may have to come back again…という謎の言葉を残して部屋を出て行った。

頭の中が整理できていないまま、ベッドに横たわった。

「今は、あまり深く考えても仕方ない、寝てしまおう」
と枕に頭を置いたが、あれは一体何だったんだろうとの疑問が頭から去らない。

「誰か他の住人が僕の部屋を調べろと大家に言って、こんな真夜中に来たのだろうのか。
大家のじいさん、又来るかもしれないって言っていたな・・・。もっと正確に話を訊いておけば良かった」

やがて再び眠りに落ちたようだ。

朝起きて洗面所のお湯が出ないことに気づく。試しにバスも調べたらそちらもお湯が出ない。
このフラットを斡旋した不動産屋に事実を伝えたところ、次のようなメールが返ってきた。

「大家様と只今、確認をしましたところ、昨晩の訪問は、緊急性の高い水漏れが発生し、早急にフラット内の状況を確認する為に、突然の訪問となりましたとの事でございます。大家様が明日午後13時半に修繕業者の予約が取れたとおっしゃっておりましたので、それまでは、水は出るがお湯はご使用出来ないとの事でございます」

「やれやれ、なんということだ。いや、それにしても突然部屋に入ってくるかね。他の部屋には女性もいるがそっちはどうしたんだろう・・・」

 
さらに言えば、このメッセージには、謝りの言葉がない。大家が申し訳ないと言ってないということか。

こちらは、おどろきと身の危険を感じた。それに加えて、今日はお湯が出ないのだ。幸か不幸か(もちろん幸いだったのだが)、今日の夕方から英国人の友人宅に身を寄せて週末を過ごすことになっていた。

いろいろとこのアパートで珍事があったのだが、昨晩の出来事はその極めつけであった。

今回滞在したフラット(アパート)は古い建物で、陰気な階段を4階も上がったどん詰まりに僕の部屋があった。
そういう意味では、幽霊が出ても(いままでそういうものに遭遇はしていないが)不思議ではない雰囲気もあった。

この出来事を前任者に伝えたところ、次のような短い返事があった。

「途中のフロアには、どうみても居室ではない扉が幾つかあって、夜な夜な謎の異音がしてるのに気づきましたか・・・・・・・」

怖すぎる・・・。

これがロンドンで体験した、真夏の夜の夢ではなく現実に起こったことだった。

次の写真は大家が事情を説明するために、廊下に貼り出したメッセージだ。

意味は次のようになる。

「パイプが腐食しているため、この階のお湯の配水がストップしています。配管工が明日1時半に来ることになっていて、うまくいけば(hopefully)修理が完了します。私はここに来て、配管工が入れるようにします。このたびの不具合につきまして、陳謝いたします。」

このメッセージで、hopefullyを読んだ瞬間、これはすぐには直らないなとの予感が頭をよぎった。

悪い予感は的中する。
 
(つづく)

 

風戸 俊城

ハイム在住。現役時代は中東、東南アジアの4か国に駐在し、40年勤務した後、現在は英国と日本を結ぶ知財プロモーターとして働く。経済・産業分野の翻訳業も手がける。

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