笑説ハイムのひろば52~吉田和文

命名の怪
学生時代の友人にひとり数奇な運命を持つ男がいる。農家の十男できょうだい全11人の末っ子。昭和23年の暮れに産声も出ないような瀕死状態で産まれた。命はなんとか一週間持ち命名の日、祖父が誕生年(昭和23年)から「和二三」・かずふみ」と名付けた。

出生届け役の叔父に窓口の人が「和二三」では可哀想です。読みは「ふみ」なので「文」にしたらどうですかと進言、そして戸籍は「和文」になった。父親の承諾も得ずOKした叔父も叔父だが変更させた窓口も役所らしからぬ“越権”だった。

1年生の1学期の終業式の日。入学以来、自分を「和二三」と信じて疑わなかった本人は、担任の女先生から「和文」だと告げられて驚く。先生も一緒に驚く。そして、短い命だろうと思った子が無事に学校に入るまでになったことに産婆さんはじめ親族や集落のみんなも驚いたという。詳しい記事はこちら。(「末っ子十男 命名の怪

新聞社
島根県益田市の豪雪地帯で生まれ育った少年が無事学業を終え、某大手新聞社に入社する。ついた仕事が物書きだとは運命のなせる業か。役所の戸籍係が越権で名前に付けた「文」と言う文字が一人の男の運命を決めたのだ。学生時代からその能力はいかんなく発揮されたが、その後も一生「文」にかかわることになるとはまさに運命の人である。

ここまで書くと読者の中では、ああ、あの十男さんか!とお分かりの方が多いはずだ。そう、絶妙な文章で読者をうならせる才能の持ち主、十男が行く!でお馴染みの吉田和文が「十男氏」である。最近は文だけではなく切れ味鋭い風刺画「十男戯画でもお馴染み。さらには、左から読むのと右から読むのとでは意味が違う・・・「54字の物語」もこなす。

十男の恋
みなさんのご存じないエピソードをひとつ紹介しよう。十男が務める会社にひとり評判の美人がいた。誰もが憧れるマドンナ的存在で昔風に言うと高嶺の花だった。きっと彼も
恋心を胸に秘めて毎日こっそりと見つめていたのだと思う。

ある時、彼女が入院することになった。十男は心配で心配で仕事も手につかない。一大決心をした彼は、病院へお見舞いに行くことにした。いつもの癖で頭をかきつつ顔を真っ赤にして「あの、これ、どうぞ!」と差し出した手には、一輪のバラの花が輝いていた。

こうして、来る日も来る日も、十男は一輪のバラの花を携えてお見舞いを続けた。やがて、彼女の心の中では、一輪のバラが次々と重なっていき、やがて百万本のバラになった。こうして、2人は固く結ばれたのだった。まるで絵にかいたような話ではあるがまぎれもない事実で、今の奥さんがその人である。
(笑説「ハイムのひろば」の内容は限りなく事実に近い部分もあるが、登場人物をはじめすべて架空の物語である)

蓬城 新

 

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