薬局と薬剤師

耳鼻咽喉科でもらった処方箋をもって、行きつけの薬局に行った。しばらく待たされた後、名前を呼ばれてカウンターに行くと、女性の薬剤師がまず聞く。「抗生物質が出ていますが、どうされましたか?」

「実は、耳に痛みがありまして・・・」事情を説明する。以前の私なら、自分の病気についての会話を薬剤師さんとするということはあまりなかった。薬剤師は医師から処方された薬を出せばいいのだという風な、今から思うと少し横柄な考えがあったと反省している。最近は心を入れ替えて、できるだけ丁寧に質問に答えるようにしている自分がいる。

次に、薬についての説明がある。「この薬は、名前が違いますが成分は同じです。」と言うのを聞いたとき、病院の看護師さんから聞いた言葉を思い出した。「どこの薬局に行かれますか?この薬を置いてある薬局でもらってください。」その時、「ん?ひょっとしてどこの薬局でも置いてある一般的な薬とは違うのかな?」とふと疑問に思いつつもそのまま帰った。

そのことがあったので、薬剤師さんに聞いた。「成分が同じということですが、例えば、メーカーとか薬品名が、病院が指定した薬とは違うということですか?看護師さんから、この薬を置いてある薬局でもらってくださいと言われたので確認しています。」と更に聞いた。すると、「ここに書かれているものと名前が違いますが、成分は同じなので大丈夫ですよ。」との返事だった。

普通は、そうですかの一言で済むシーンかもしれないが、どうも納得がいかない。更に聞いてみた。「ひょっとして、処方箋の薬名は先発薬で、今いただくのがジェネリックということですか?そうであれば納得できるのでそれで構いませんが・・・」。すると、薬剤師さんは、すぐには分からず、少し調べてから「この薬は先発薬でジェネリックは出ていません。」という。うーん、まだ、納得が行かない。

このやり取りを見ていた別の薬剤師さんのたった一つの説明ですべて解決した。「処方箋に書かれているのは薬品名ではなく、成分名です。医師が成分名で処方して、薬局がこの成分の薬品を提供する場合があります。」とのこと。「そうなんですか、初めて知りました。勉強になりました。」と言って帰った。

担当の薬剤師が初めからこのように説明してくれれば何でもなかったのだが、何度も聞き返すようなことになってしまった。別に、トラブルでもないし、声を荒げていた訳でもないが、煩わしさが少し残った。元はと言えば、私が耳鼻科の看護師さんから聞いた言葉を勝手に解釈して、その疑問を確かめずに薬局に行ったことが発端である。

この薬剤師さんも無知なのではなく、少しだけ説明能力が乏しかったのだろう。それと、私のように、いちいち納得しないと薬を受け取らない人など少ないのかも知れない。おそらく普通は、薬の事などどうせわからないので、以前の私のように何の疑問も感じずに受けとっているのだろう。しかしそれでいいだろうか?

こんなことがあったので、少し感じたことを書いてみたい。今回は別に、この担当の薬剤師さんを責める気持ちはない。ただ、過去には、時々、素直になれない時もあった。「薬の素人は、プロである私たちの言うとおりにすればいい」といった風な態度が見え見えな人もいた。

私自身、昔は、病気や薬の事は全くの素人だし何の知識もなかったので、言われるままにするしかなかった。しかし、歳を重ねるに従い様々な情報も得て少し知識もできた。そして、医療業界にも医師により、病院により、全く正反対の意見を持つ場合もあることがわかった。

ひとつの薬についてでも、学説により「是」とする医師と「非」とする医師があるのは事実だ。米国と日本では、薬や治療法の認可の違いもある。また、病院と言えども利益を上げないと経営していけないので、仕入れの関係で在庫の多い薬品を早く消化したいということもあるようである。病院の事情もいろいろあることを考えるとすべて言う通りというわけにもいかない。

私の親しい友人の一人である薬剤師さんは、自分が病気した時、医師から処方される薬の種類は、すべて、どの薬品メーカーのどの薬と指定して、決して先方の意に任せることはしないという。そこまでは無理でも、少し勉強した方がいいかなと還暦を過ぎたころから考えるようになった。そして今、患者の側でも勉強をして、プロである医師や薬剤師とのやりとりは一方的なものではなく相互の理解と相談という形が理想だと思う。

最近の世間の風潮を見ていると、「かかりつけの医師」と同様に、「かかりつけの薬剤師」をもつことが奨励されている。薬剤師が、ほんとうに親身になって、患者の健康管理に役立ってくれるならとてもいいことだ思う。そのためには患者の側も薬剤師の側も、相当の心構えを持って勉強する必要があり、理想の実現には少し時間がかかるのかもしれない。

(八咫烏)

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