花と神話~ピオニー(シャクヤク)
ピオニーは美しい花をつける植物ですが、薬草としても昔からよく知られた植物でした。この最古の薬草が美しい名前で呼ばれるようになった裏には、師弟の間の争いがあったのです。
ギリシャの医神アスクレピオスには若い弟子がいました。名前をパイオエンといいました。あるとき、パイエオンはオリュンポスの丘を歩いていました。そこには不思議な植物が生えているという話を聞いたことがあったので、それを探していたのです。話をしてくれたのは、多産の女神レトーでした。彼女はそのときゼウスの子を宿しており、その植物の根は陣痛を軽くするということでした。そしてその根を手に入れたおかげで、パイエオンは医者としての名声を得ることができたのです。
トロイア戦争で傷ついた神々を治したのはパイエオンでした。このときはアポロンが名医の誉れ高いパイエオン(癒したまう者の意味)に姿を変えて治療したのだと言われています。このことから、初期の頃は医学博士のことをパイオニと呼び、医薬植物のことをパイオニアと呼んでいました。
ハデスが冥界に下りて来たヘラクレスと闘ってけがをしたことがありました。その時も大急ぎで天上に上り、パイエオンに治療してもらったということです。こうしてパイエオンは師である医神アスクレピオスよりも名声を得るようになったのです。こうなると面白くないのは、アスクレピオスのほうです。とうとうパイエオンを殺してしまいました。
しかしハデスは自分を救ってくれたパイエオンのことを忘れていませんでした。パイエオンの死を知ったハデスは彼をその不思議な薬草に変えたのです。そして、その植物の名をピオニーと呼ぶようになったと言われています。
またレトーもその根を利用して、アポロンとアルテミスの双子を無事に生みました。しかも安産であったといいます。そこでレトーがパイエオンの死を悼んで愛人のゼウスに頼んでピオニーに変えてもらったという説もあります。