冬の星座~巨船アルゴ号の大冒険

アルゴ号座はもともとは一つの星座であったが、あまりにも巨大(全天で最も巨大)なために18世紀フランスの天文学者ラカーィユが、帆座、船尾座、羅津盤座、竜骨座の4つに分割し、それらを統合してアルゴ号座と称するようになった。帆は柱に付けて船を前進させるための布、船尾は文字通り船の後ろの部分、羅針盤は方位や位置を知るための装置、竜骨は船の底の中心を船首から船尾にかけて通した材のことをいう。近世になって、それぞれ分割された部分が独立した星座となった。

このアルゴ号座には肉眼で見えるものだけでも800個以上の星があるが、そのなかでもひときわ目立つのは竜骨座にある1等星カノープスだ。全天でシリウスに次いで二番目に明るい星である。カノープスの名は、トロイア戦争でスパルタ王メネラオスの率いた艦隊の水先案内人を務めた人の名からつけられたという。日本では地平線ギリギリにしか見えない為、大気減衰によってそれほど明るくは見えない。この星が見えると縁起が良いとされており、七福神の「南極寿老人」の呼び名はこの星の中国名「南極老人星」からきているといわれる。

神話では、この星座はイオールコス国の王子イアーソーンが黄金の羊毛を求めて冒険に旅立った時に乗った快速船アルゴ号の姿だとされている。この巨大な星座にまつわる神話も、その大きさに見合った壮大なスケールn一大叙事詩である。

アルゴナウティカ~アルゴ号探検隊の物語
古代ギリシャのイオールコス国の
王アイソーンは、病弱であったため叔父のペリアースに王位を奪われると、息子の王子イアーソーンの身を案じてペーリオン山に住むケンタウルス族の賢者ケイローン(射手座)に預けた。イアーソーンはケンタウルスのもとでさまざまな学問や武術を学びながらすくすくと育ち、やがて成人すると、彼は自らの王権を取り戻すためにイオールコスへと向かった。

道中、イアーソーンは老婆に姿を変えた女神ヘラをおぶって川を渡ったことがあった。その時一方のサンダルが脱げて何処かに流れてしまい、片方のサンダルだけを履いた格好でペリアースのもとに現れた。ペリアースは「サンダルを片方しか履いていない者に注意しろ」という託宣を受けていたのでイアーソーンの姿を見て恐れおののき、何とか彼を排除しようと考えた。だが、親族殺しは王といえども許されない大罪だったので直接手を下すことはできなかった。

そこでペリアースは、ひとまずイアーソーンを歓待し宴の途中で程よく酔いが回ったころを見計らって「もし、お前が王になった時、市民の中に自分の命を脅かす者がいると神託を受けたとしたらおまえならどうする?」と質問を投げかけた。するとイアーソーンは「コルキス王アイエーテースが眠らない毒蛇に守らせているという黄金の羊毛を持参させたらよかろう」と答えた。

ペリアースは得たりとばかりに、そっくりそのままの命令をイアーソーンに下した。それはあまりに無茶な命令であったが、イアーソーンは勇敢にもその遠征を決意した。イアーソーンはアルゴスという船大工に頼んで立派な船を造ってもらい、アルゴ号と名付けた。また、女神ヘラの助けを借りて勇者ヘラクレス(ヘルクレス座)、双子の勇士カストル・ポルックス兄弟(双子座)、詩人オルフェウス(琴座の琴の持ち主、名医アスクレーピオス(蛇遣い座)、トロイア戦争の英雄アキレウスの父ペーレウス、千里眼の持ち主リュンケウスなど、優れた戦士たち50人を集めた。こうしてイアーソーンたちアルゴ号探検隊はイオールコスから旅立ったのである。

コルキスに至るまでの数多の冒険
アルゴ号がはじめに辿り着いたのはレームノス島であった.ここはなんと女性だけしかいないという奇異な島だった。イアーソーンたちはこの島で女性たちの歓待を受け、月日の経つのを忘れて享楽に興じていたが、やがて故郷の妻を思うヘラクレスの説得により、一行は使命を思い出し再び海原へと乗り出した。

キオスという土地に辿り着いた一行は、清水を求めて上陸した。この時ヘラクレスの従者であったヒュラースという少年が泉のニンフに見初められ、さらわれてしまった。ヘラクレスはヒュラースを探し回り、ついに帰ってこなかった。探検隊はしかたなく彼をおいて旅立った。

次に着いたのがベブリュクス人の国である。ここの王アミュコスはポセイドンの子であり非常な力持ちであり、あらゆる旅人に拳闘の試合を申し込んでは相手を打ち負かし、殺すか奴隷としていた。拳闘に秀でていたポルックスはアミュコスの挑戦を受け、さんざんアミュコスを殴りつけて倒した。するとペブリュクスの民が王の仇を取るために探検隊に襲い掛かって来たので、探検隊は武器を取ってこれを打ち負かした。再び旅立った探検隊は、やがてポントスの入り口に近いトラキア、ビテューニアの浜に着いた。

するとそこで、ピーネウスという盲目の男が一行を出迎えた。彼はサルミュデーッソスの王子で優れた予言者だったが、その力を乱用したために神の怒りをこうむり、盲目にされてこの浜で暮らしていたのだった。一行がピーネウスを慰めると奇跡が起こり、ピーネウスの目が見えるようになった。また、この浜には食事の旅に襲ってくる三羽の怪鳥ハルピュイアイがいたが、翼を持つ兄弟ゼーテースとカライスが追い払い、ピーネウスは平和に暮らせるようになった。

ピーネウスは感謝のしるしとして、一行に「シュンプレーガデス」のことを語った。シュンプレーガデスとはポントスの海にある二つの巨大な巌のことで、この巖は絶え間なく揺れ動き互いにぶつかり合って、その間を通ろうとする船を打ち砕いてしまうのだ。この巌に挿まれてしまってはいかにアルゴ号といえどもばらばらに壊れてしまう。ピーネウスは一匹の白鳩を飛ばし、鳩が巌の間をくぐり抜けたら通り抜けなさい。鳩が引き返したら船も引き返すのです」と言った。

一行はピーネウスの助言に従い、シュンプレーガデスを無事くぐり抜けることができた。この時、一度も船を通したことのないのを誇りにしていたシュンプレーガデスは、アルゴ号を潰さんと激しく打ち合ったため、二度と動けなくなってしまったという。このあと一行は、マリアンデューノイ、アマゾンなどを経てコルキスへとたどり着いた。

黄金の羊毛を求めて
そのころ、天上界では、イアーソーンに味方する女神ヘラとアテナが、美と愛の女神アフロディテに協力を頼んでいた。アフロディテは息子、恋愛の司神エロースを遣わし、コルキス王アイエイテースの娘で魔法に長けた王女メーディアがイアーソーンに激しく恋するように仕向けた。

アイエイテースの宮殿に辿り着いたイアーソーンは、アイエイテースに黄金の羊毛を渡してくれるように頼んだ。が、アイエイテースは意地悪にも、「わが厩には軍神アレースより授かった青銅の足を持ち、口から炎を吐く牡牛がいる。その牛でアレースの聖地を耕し、そこへ竜の歯を蒔くのだ。竜の歯からは幾多の戦士が生まれてくるが、それを皆倒すことが出来たなら黄金の羊毛をくれてやろう」と言い渡した。

イアーソーンは途方に暮れてしまった。だが、イアーソンに恋したメーデイアが密かに協力を申し出た。彼女はイアーソーンに魔法をかけ、一日だけ火にも剣にも傷がつかない体にしたのである。こうして、イアーソーンは見事牡牛をねじ伏せ、蒔いた竜の歯から生まれた戦士たちをすべて打ち倒すことが出来ったのだった。

アイエーテースは身を震わせながら宮殿に戻り、イアーソーンを殺すために邪悪なたくらみを練り始めた。ところが、父王のたくらみに気づいたメーデイァは、もはや父母と国を捨てる決心をし、夜中にイアーソーンのもとを訪れて、今すぐ黄金の羊毛を持って旅立たなければならないと危機を知らせた。

イアーソーンたちはそっと宮殿を抜け出し、黄金の羊毛を取りに行った。黄金の羊毛は獰猛な竜によって守られていたが、メ―ディアが呪文を唱え魔法の薬を振りかけるとたちまちのうちに眠りこけてしまった。こうして一行は黄金の羊毛を手に入れ、空がばら色に染まる夜明けにイアーソーンはメ―ディアを連れて、イオールコスへの帰途についたのであった。

イオールコスへの帰還
黄金の羊毛を盗まれたことを知ったアイエイテースは激怒し、すぐに追手の艦隊をさし向けた。メーディアの弟、アプシュルトスが率いる艦隊は、アルゴ号の先回りをし逃げ道を完全にふさいでしまった。周りをすっかり囲まれてしまったアルゴ号の乗組員たちは、ひそひそとメーディアを引き渡してしまってはどうかとささやき合った。

それを聞いたメーディアはイアーソーンを恩知らずと激しくなじり、もし自分を引き渡そうとすりなら船に火をつけて死んでやるとまで言った。イアーソーンは「君を引き渡そうとしたのは、このまま正面から闘っては激戦となるのは避けられず、弟のアプシュルトスを殺してしまうかもしれないからだ」と言い訳をした。するとメ―ディアは恐ろしい策略をイアーソーンに授けた。

メーディアはアプシュルトスに「黄金の羊毛を持って国へ帰るから、イアーソーンのことは見逃してほしい」との趣旨の手紙をしたためた。そして小島に上陸し夜を待った。夜になってイアーソーンはアプシュルトスに「メーディアを引き渡す」と使者を送り、夜闇に紛れて船を小島に勧めた。

アプシュルトスは使者に従って小島に上陸し、浜辺に立つ姉に声を掛けようとした。ところがその途端、先んじて小島に上陸していたアルゴ号の勇士たちが飛び出してきてアプシュルトスを斬り殺したのである。むろんこれらはすべてメーディアの策略であった。指揮官を失って混乱する艦隊をすり抜け、アルゴ号は包囲網を突破した。アイエイテースは再び追手をさし向けたがもはやアルゴ号に追いつくことは叶わず、ついにアルゴ号はイオールコスへの帰還を果たしたのである。

さて、無事約束を果たしたイアーソーンであるが、その後の人生は華々しいものではなかった。メーディアが王位に固執する叔父ペリアースを殺してしまったため、二人は国民から恐れられついには追放されてしまう。コリントスに逃れつくと、十年ほどは平穏に暮らした。ところが、イアーソーンの勇名を知る王から娘の婿にならないかとの話が出ると、婚約のためにメ―ディアを離縁してしまった。

メ―ディアの怒りは爆発した。彼女は王と娘を焼き殺すとイアーソーンとの間にできた二人の子まで殺してしまった。そして、祖父である太陽神ヘリオスから譲られた翼のある竜の曳く車で逃げ去って行った。激しい気性からメ―ディアは毒婦の典型と言われているが、もちろんその原因の多くはイアーソーンにある。イアーソーンはその後も長く生きたというが、最期は惨めなものであったらしい。ある伝承では、アルゴ号の傍らに座っていたところ、古くなって朽ちた船首が落ち、その下敷きになって死んだとも言われている。​

星座名 学名  
りゅうこつ座 Carina
ほ座 Vela
らしんばん座 Pyxis
とも座 Puppis
季 節 冬の星座(20時正中
3月中旬~4月上旬)
 

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