わるがき/その⑥「街を震撼とさせたわるがき集団」・・・X氏のつぶやき73

これは大阪の公団住宅が早く建ち、大きな住宅街になっている市のはずれで起きた、わるがきの話です。事件にもなったのですが未成年のため伏せられたものですが、その連中の一人が私の知り合いの息子であったためかかわってしまったのです。

2DKの公団は、ご夫婦が若い時は夢に見たマイホームに入った歓びで、抽選で外れた人は羨望の眼差しだった。その公団住宅も20年、30年が経つと、家族構成も複雑な年令に子供達が育って、中学生、高校生になると家に居場所がなくなるらしく、友達の家を渡り歩く子供たちが多くなった。

書くのに気が咎めるのですが、日本が成長してきたある時期の現象を検証する“住宅の変化”が子供たちの非行に走って行ったのです。私はその住宅の隣町に住んでおり、その住宅の真ん中にある総合病院に勤めている院長と知り合いであったために、少年少女の非行の実態を教えられた。「大阪市で、中高生の妊娠中絶が一番多い。学校も頭を抱えている」家の部屋が狭い。プライバシーが守れない。悲劇が起きているという。

そんな話を聞いた頃に、近所にお母さんが働きながら一人息子を大事に育てて、塾にも行かせ、良い高校に入学させようと働きつめていたのだが、どうやら息子は塾には行ってないという。私の息子と同級生だから調べてみると、上級生(つまり高校生)に誘われて、わるの仲間に入っているという。このわるがきのリーダーは高校生だが、その仲間で中学を出てすぐに働きに行った金子君という金回りのいいのがいた。誰が知恵を働かせたのか、近くの工場街の隅っこに、ガレージのような倉庫貸しをやっている不動産屋があって、その一部屋のガレージを借りて、彼らの“アジト”にした。そのうち、家出してきた少女が寝泊まりするようになり、いよいよ“わるがき”の巣になってしまった。家におれないよ。親父が寝静まってないと帰れん。わしも!オレも!その連中がたむろし始めた。だが、世間に対して万引きをしたり、ゆすったり他人に迷惑をかけるようなことはしない。ただ、家でおれない連中が、このガレージにあふれてくる。時折パトカーが見回りにやってくることもあった。

このガレージを借りているのは、中学を出て働いている金子君だったから、問題は起きなかったが、少年にかしている大家が問いただされた。とて追い出されることもなく。遂に問題が起きた。このガレージに逃げてきている中学生の少女が妊娠をしたという問題が起きた。相手はだれか?少女は明かさないが、リーダーをはじめ、金子君も心配して市の病院に連れていって医師に診てもらうことにした。

「金がいる」

「みんなで金を集めよう」

ということになり、私の息子の友達も金を持ってこいと言われて働いている母に、小遣いを1万円くれ、とせまったらしい。

それを聞いた私はどうしたものかと思案したが、放ってもおけない。とて、そのアジトに言ってわるがきに撲られてもとも思う。少女は親には相談などしてなかろう。街の産婦人科で内緒に処理してしまうのだろう。

「金さえあったら」

リーダーは高校のクラスメートにもアルバイトの金を集めた。わるがきの仲間も金を集めてきた。このような少女の妊娠を処理している産婦人科医院があることも噂で知っていたので、できれば私の知っている医師にお願いしてやりたくて、そのリーダーに会うべく夜、彼らのアジトに立ち寄った。近づくとたばこの換気がムンムンしていた。

「あんた誰だ?」

とリーダーが出てきた。開けたシャッターの向こうで少年少女4、5人が車座になって何か食べていた。

「ひでのりに聞いたんだ。金ならおじさんも協力する。それより産婦人科の先生ならおじさんが知ってるから紹介するよ」

「放っといてくれ!ひで、なんでしゃべるんだ!こら、なんで喋った!」

「ひでのり君を責めるのはやめてくれ。うちの息子と友達なんだ。」

「余計なことだ、帰ってください」

「そうはいかん!」

「おじさん、何も解決はせんよ!これは、俺たちの問題だ。大人はみんな敵なんだ。ここにおる連中は。家に戻れん連中ばかりなんだ。みんなで助けられなくなったら終わりなんだ。おじさんに助けられても何も解決せえへん。帰ってくれ。警察には言わないでください。絶対に!これは俺らが解決します。ひで、持ってきたか?」

「うん」

とうなずいて私をみた。

「帰ってください。病院は決めてるんで。他人には知られたくないし、親にも知られたくない。おじさん、黙っててくれますか?あの子のためです!」

妊娠している少女は、ミニスカートを履いて何かを食べていた。暴力を振るうわけでもないし、愚連隊のようでもないし、家出仲間が楽しく暮らしているようで、このリーダーも見てくれは、慕われている様子だが、言葉遣いはまともに話してくる。しかし、放っておいてくれ。これはぼくらの問題だから!と押し返す。

そんな分別がどこにあるのか?と思ったが、ここに集まっている仲間は、家が狭くて、自分の部屋がなくて、思春期を迎えた子供たちの居場所がないものが集まってきていたので、問題は“グレタ”仲間ではなく、生活の苦しさから集まって、このガレージを借りて集まっていたからだ。その理由をこのリーダーは知っていた。夜の両親の営みを見てしまったと思う子供たちが大半であったとは。その後、教育委員会の少年補導課の人がこのアジトを訪ねて、子供たちから家出の理由を聞いた。みんなはそれぞれ自宅に戻されることになって、初めてその両親が驚いたということも私に伝わってきた。

少女の妊娠処理は、いつ終わったのか、金はみんなが集めて病院に払ったのだろう。その少女の親はそのことを知らないのだ。その公団住宅の集会場は、その後、週3回子供(少年、少女)たちのために1日中解放されて、自由に出入りできるようにしたそうです。そして、ひでのり君の話を聞くと、その時の少女は、看護学校に入学して勉強を始めたといった。ひでのり君も、親のすすめる二番目の高校に入学できた。

やがて、その公団住宅は、もはや老人たちの住宅に変わってしまった。少年少女たちは、そこには住んでいないのです。老人ホームのようになった今、どうやったら若者が住んでくれるか、老人たちは真剣に考えているようです。こうしてそのわるがきのことを書いていて、その時のわるがきたちが今社会の中で大人になって夫婦生活を始めていることだが――。

彼らは、あのガレージのことを思い出しているだろうか?――かけがえのない体験だったが。

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